慣用的な表現に「顔色をうかがう」というのがありますが、その意味としては、相手のご機嫌をうかがう・さぐるといったことになります。イメージ的には目下の者が目上の者の感情をさぐって、自己保身を図ったり、目上の者に取り入ったりする意図が感じられて、今ひとつ良いイメージの言葉という感じがしません。「社長が部下の顔色をうかがう」といった使い方はどうもしっくりきません。下の者が上の者に対して行う行為としてイメージされることのほうが相応しいような気がします。
 しかし、この表現には極めて日本的なものであるような気がします。そもそも顔色をうかがうことには相手の気分を害さない、スムーズなコミュニケーションを促進させるための一種の気遣いとも取れなくはありません。タイミングによっては相手に不快な思いをさせてしまうかもしれません。またこれは自分の為かもしれませんが、相手の心の持ち様でまとまるはずのものが、まとまらなくなることも有るのです。万事を丸く収めるための気遣いの発露が「顔色をうかがう」こととも考えられなくもありません。
 以上のことから「顔色をうかがう」ことはそんなに悪い言葉ではないのかもしれません。ですが注意も必要です。「顔色をうかがう」ことばかりに専心してしまい自分の本心を表出しないことは好ましくありません。自分の中に合い譲れないものがあればそれは表現する必要があります。その機会が与えられず一人の「顔色をうかがわない人間」を創出し、まわりが「顔色をうかがう人間」だけで構成されている大国は明らかに恐怖です。そうならない為にも適当に「顔色をうかがう」ことにしていきましょう。(吉川)