有島武郎の「生まれ出ずる悩み」をまた読んだのですが、高校生の頃から今まで何度か読んでいます。作中に登場する画家を志望する「君」にはモデルとなる人物があったといことも知ってはいたのですが、今回「生まれ出ずる悩み」を読んでいて特にそのモデルとなった青年の作品に興味が湧きました。いつもは大正時代の寒村の漁場の有り様や過酷な日常、人々の生活などに目が行くのですが、本意では無く漁師として生きながら絵を描くことを止めなかった青年の作品に興味が湧きました。
 その青年は木田金次郎といって、有島の没後、北海道の岩内で漁師を辞め画家になり今では本人の名を冠した美術館がその地に建てられています。今は便利な時代で何でもネットで調べられます。その恩恵に与って調べて見ると、小説の中にも取り上げられている山の絵はどれか特定はできませんが、山をモチーフとした作品には北海道の厳しい自然の有り様とその中にもう一つ全く正反対の温和な色使いが感じられ、普段全く絵画の鑑賞などしたことのない私でもこの作品の経歴に興味が持てました。
 有島の作品を読んでいなければ木田金次郎という作家を知らずにいたことでしょう。どんなことがきっかけで興味の奥行きが広がっていくのか分かりません。年を重ねても、いろいろなことにアンテナを張り巡らすことは楽しいことであると熟々感じました。本当は美術館に足を運んで直に対峙するといいのでしょうが、それはもう少し先の楽しみに取っておきたいと思います。 (吉川)