犬に噛まれたら狂犬病に罹って死んでしまうという内容の文章を小学生のテキストで扱います。そのモチーフで書かれた文章が複数あることも多少の驚きですが、特筆すべきは文学的文章として取り上げられていることです。「狂犬病」と言えばウイルスの話なので当然説明的文章として取り扱われるような気がしますが、何れの文章でも物語のいちエピソードとして語られているのです。これにはその文章の書かれた時代、または、作者の年齢に大きく関係があると考えられます。私の知りうる「狂犬病」をモチーフにした作品は飼い犬に噛まれたことで、発病することを恐れる主人公の心境を物語ったものです。前提としては発病は起こりうるはずのないものとして描かれています。ここで私がいつも気になることが、野犬に噛まれたら狂犬病になるリスクは高まるのか、また、現代医学であれば完治することが可能であるのかということです。それを生徒に提起すると、生徒たちは一様に「野犬」とは何かを口にします。確かに「野犬」とは「野良犬」のことで「野良犬」とは元々は人に飼われていた犬が野に放たれたような感があります。私としても野犬とは野生の犬だとは断言ができません。ただし昔と比べてという観点で言えば、今は「野犬」というフレーズは聞かなくなりました。芥川の小説に野犬狩りの話がありますが、今の子どもたちはどう思うのでしょうか。その言葉を知っていなければいけない訳でも生きていけない訳でもありません。ですが、知っていれば理解が進み、より深くイメージができるようになります。このことは文章理解とも大きく関わりを持っています。言葉に対して敏感になり、意識的に身に付けようとすることが自分を豊にしていくことは確かなことです。

ちなみに私は四歳のときに野犬に噛まれたことがありますが、狂犬病にはなりませんでした。      (吉川)