明治から大正へ時の変遷を描いたエッセイを読んでいます。芥川龍之介や高浜虚子など様々なジャンルの作家が当時の町の様子を独自の目線で記したエッセイです。教科書で習ったような関東大震災や日清戦争などの大事件を当時の市井の人々がどのように受け止めていたのかなど大変興味深く読んでいます。
中でも私が面白いと感じたエピソードが、「散髪屋」さんについて書かれた行です。明治中期の当時「束髪」(束ねる髪)が一般的で男性はちょんまげ、女性はまさに束髪が慣例として定着していました。そこに「散切り頭をたたいてみれば・・・」とあるように「散髪」が奨励されるようになりました。散髪という慣例のない庶民にどうやって散髪を勧めていくのか、新しく開業した「散髪屋」さんでは店の軒下に切られたちょんまげをいくつも吊り下げて道行く人々にアピールしたそうです。
現在そんなものが店先にぶら下がっていたら入店することを躊躇する人は後を絶たないことでしょう。当時はそれが良い宣伝になっていたとは何とも面白い物です。そんなことを知るだけでも、当時の人々の生活の逞しさというか直接的な発想の頼もしさといったようなものがうかがえ、時間の隔たりを超えて人間的なつながりを感じます。
教科書の中では分からない当時の人々の人間的な側面を感じることができるのも読書ならではの醍醐味と言えるのではないでしょうか。                                     吉川